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ある状況の中で、いつまでもゼロ金利を維持していくと、民間活力が失われて、日本経済の再生あるいは立ち上がりにとって、かえってマイナスになる可能性もある。 3資本主義経済の最先端であるべき金融市場、特にインターバンク・マネー・マーケットにおいて、オーバーナイト・レートがゼロであることは資本主義の原則に反するものであり、そのためインターバンク・マネー・マーケットは縮小している。
このことは、これからの日本経済の、あるいは日本の金融市場の国際化と健全化にとって非常に大きなマイナスになる可能性がある。

H総裁は以上のようなゼロ金利のデメリットをあげて、「いつまでもゼロ金利で良いわけではない。金利を正常化していく、非常事態の非常金利ではなく、正常化していくということは、次の段階としてなるべく早い時期にやるべきことだと私は思っている」と述べている。 このようにC銀行の総裁が自ら採用した金融政策の副作用をあげて、一日も早くゼロ金利をやめたいと発言すれば、市場は「日銀はできるだけ早くゼロ金利をやめたいと思っている」と予想するようになる。
市場がそのように予想すれば、それだけ、銀行の貸出金利やCPや社債の金利の低下も小さくなり、ゼロ金利政策の効果を殺いでしまう。 C銀行総裁が自らの金融政策の効果を殺ぐような発言をすることは自殺行為である。
この点を、バーナンキFRB議長と比較するとその差がはっきりする。 B議長は月に何回も講演しているが、そのたびに、「2007年の夏の経済危機発生以降、FRBは危機に対して攻撃的に(アグレッシブに)対策を打ってきた」とか、「今やFF金利(日本のオーバーナイト・レートに相当する)はほぼゼロであるが、FRBにはこの危機に対して利用できる数多い政策手段がある」と述べ、経済危機からの脱出に向けて確信に満ちたメッセージを絶えず市場に送っている。
この金利引き上げ論に対して、A氏(ドイツ証券エコノミスト)は「預金金利の上昇によって生活が一変するほどの収入を得ることができる預金者とは、いったい何者だろうか。 それは、相当の預金を保有している富裕層に違いない。
すなわち、『預金者保護のために利上げすべし」という考え方は、限られた富裕層をもっと保護せよといっているに等しい」と批判している。 もっともな批判である。
そもそもゼロ金利をやめれば、景気回復に役立つほど消費が増えるわけではない。 むしろ、株価が低下し、したがって、株式で資金を運用している割合の高い年金の運用利回りそもそも、H総裁があげたゼロ金利のデメリット論は間違っている。
まず、2000年8月、ゼロ金利を解除してオーバーナイト・レートを0・25・パーセントに引き上げた際に、H総裁は、老齢者や年金生活者が金利の引き上げを機に「じっと貯め込んで持っていた資金を消費に使ったり、あるいは物を買ったり、旅行したりというようなことになっていくことを、私どもも期待している」(2000年8月2日総裁記者会見)と述べている。 当時、H総裁だけでなく、「金利を引き上げて消費を増やせば、景気は良くなる」とう主張は、新聞・雑誌でもしばしば目にしたが、エコノミストの中にもそういう主張は低下し、円高になる。
企業経営も金利負担で苦しくなって、失業者が増え、賃金所得は減少する。 そのため、輸出も消費も投資(企業投資や住宅投資)も減って、景気は悪くなってしまう。

これが標準的経済学が教える金利引き上げが引き起こす結果である。 低金利で年金生活者の生活が大変だという。
しかし、当時、インフレの時には年金の実質価値(年金の購買力)の目減りを相殺するように、年金支給額は物価スライドして増額されたが、デフレで年金所得の実質価値が増加しても年金支給額は減額されなかった。 デフレ下で年金の実質額が増えている年金生活者の生活を考えるよりも、教育費や住宅ローンを抱えた現役世代やデフレで失業している人々の生活を考える方が先であろう。
1はデフレ脱却という重大な使命を担っている日銀総裁が言うべきことではないのである。 日銀は2000年8月に「デフレ懸念は払拭された」としてゼロ金利を解除するが、その年の後半から景気の悪化がはっきりしてきたため、2001年3月19日には「ゼロ金利十日銀当座預金の増額」という量的緩和政策に踏み切る。
H総裁はこの金融緩和政策について、「今回、景気が再び足踏み状態となっているのは、短期的には米国を中心とする海外経済の予想以上の急激な減速が主因と見られます。 しかし、より根本的な問題は、さまざまな構造的課題が依然未解決のまま残っているということであると考えられます」(衆議院財務金融委員会におけるN銀行総裁報告。
「通貨及び金融の調節に関する報告書」(概要説明2001年21月30日)と述べている。 当時日銀副総裁だった山口泰氏も、2001年3月19日に量的緩和政策が決定したときにN銀行は、量的緩和政策は「構造改革がもっと本格的に進展するならば」、その「『効果もそれによって強まる。
逆に、構造政策の支援なしに金融政策だけをもって経済情勢に対応し続けることは難しい』と申し上げた」(2001年7月5日の記者会見、N銀行ホームページ)と述べている。
H総裁は「無利子の信用供与であれば、資本主義のダイナミズムがそこからは生じてこない」というが、これは名目金利と予想実質金利を区別しないため生ずる誤解である。
名目金利とは、ゼロ金利という時のゼロ。 パーセントや銀行で表示されている預金金利や住宅ローン金利などのことである。
それに対して、予想実質金利とは名目金利から市場が予想しているインフレ率を引いたものである。 デフレが予想されれば、予想インフレ率はマイナスになるから、予想実質金利は上昇することに注意しておこう。
構造改革を進めるときには、多くの場合、設備投資が必要になる。 例えば、構造改革を担う企業の新規参入に際しては、設備投資が必要である。

設備投資は他の事情が同じであれば、予想実質金利、特に、予想長期実質金利が低ければ増大し、高ければ減少する。 A氏が推定した予想実質金利は長短とも、ゼロ金利政策から量的緩和政策が導入された当時にかけて、1988年のバブル景気の頃と変わらない高さだった。
予想実質金利が景気のもっとも良い時のそれと変わらない高さであれば、構造改革が進まないのも当然である・デフレ不況で、雇用需要がない時に、企業が構造改革と称してリストラを進めれば、失業した人は職が見つからず、一雇用不安から更なる消費の減少を招くだけである。 2000年に日本でも盛り上がったIT投資が、アメリカ経済が失速するとたちまちしぼんでしまい、たったの1年程度で景気回復が終わってしまったのも、予想実質金利が高すぎたうえ、その高止まりする予想実質金利を原因とした激しい資産デフレが一向にやまなかったため、民間経済に自律的に回復する力がなく、いつまでたっても財政支出と輸出頼みだったからである。

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